証券訴訟について
証券訴訟の概要
クリックで回答内容を確認できます
- 証券訴訟とは
- 損害を被った株主は誰に対してどのような請求をすることができるか
- 会社に対して金商法に基づく損害賠償請求をする場合、どのようなことを主張立証すればよいか
- 「重要な事項について虚偽の記載」(金商法21条の2第1項)とはどのような意味か
- 金商法上の損害推定規定とはどのような内容か
- 金商法上の損害推定規定における「公表」とはどのような場合をいうか
- 会社に対して民法709条に基づく請求をする場合、どのようなことを主張立証すればよいか
- 有価証券報告書等の虚偽記載等と因果関係のある損害とは
- カストディアン名義で株式を取得した投資家は、自己が実質的な株主であるとして損害賠償を請求することができるか
Q:証券訴訟とは
証券訴訟とは、日本においては、有価証券報告書等に虚偽記載等があった場合に、
これを信じて有価証券を購入し損害を被った株主が、当該虚偽記載等を行った会社やその役員又は関係者に対して損害賠償を請求する訴訟のことを指す場合が多いです。
Q:損害を被った株主は誰に対してどのような請求をすることができるか
虚偽記載等に係る損害賠償請求としては、金融商品取引法に基づく損害賠償請求、民法の不法行為に基づく損害賠償請求がなされることが多く、それぞれ会社及び役員に対する請求があり得ます。
・会社に対する損害賠償請求:金商法21条の2、民法709条
・役員に対する損害賠償請求:金商法24条の4、22条、民法709条
金商法に基づく損害賠償請求は、民法の不法行為に基づく損害賠償請求の特則として、要件が緩和されています。他方で、金商法に基づく損害賠償請求は、賠償額の上限規定があるため(金商法21条の2第1項、19条1項)、民法709条に基づく請求の方がより賠償額が多くなる可能性があることから、実務上は、両方の請求がなされることが多いです。
Q:会社に対して金商法に基づく損害賠償請求をする場合、どのようなことを主張立証すればよいか
金商法に基づく損害賠償請求は、民法709条に基づく損害賠償請求よりも、要件が緩和されています。具体的には、発行会社に対して金商法に基づく請求を行う場合、以下の①ないし③の事実を主張立証すれば足り、民法709条に基づく請求と異なり、故意・過失を主張立証する必要がありません(金商法21条の2第1項)。損害については、推定規定があり、一定の株主については③(ii)の損害が推定されます(金商法21条の2第3項)。したがって、当該事実を主張する場合は、虚偽記載と損害との間の因果関係を主張する必要がありません。
① 有価証券報告書等の開示書類の重要事項に虚偽記載等があること
② ①の書類の公衆縦覧期間中に、募集・売出しによらないで有価証券を取得・処分したこと
③ (i)①の虚偽記載によって損害を被ったこと
または
(ii) 虚偽記載の事実公表日前1カ月間の市場価額平均額-公表日後1カ月間の市場価額平均額
但し、損害賠償額は、取得価額から請求時の市場価額(既に処分していた場合は価額価額)を超えることはできません(金商法21条の2第1項、19条1項)。
Q:「重要な事項について虚偽の記載」(金商法21条の2第1項)とはどのような意味か
「重要な事項について虚偽の記載」とは、投資者の投資判断に重大な影響を与える事項について、当該記載が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に違反することをいうとされています(東京地判令和6年3月22日)。
「虚偽の記載」があることを主張立証するためには、裁判例上、有価証券報告書等に記載された財務情報について、その前提となった会計処理及び一般に公正妥当と認められる企業会計の基準を特定した上で、上記会計処理が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に違反していることを主張する必要があるとした裁判例があります(東京地判令和6年3月22日)。近時の裁判例においては、当該要件に関する主張立証ができていないと判断されるケースが少なくないため、当該要件の充足を適切に主張立証することが重要です。一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に違反しているか否かの判断は、会計専門的な知見が必要であり、会計が問題となるケースを豊富に扱っている法律事務所や会計の専門家と連携ができる当事務所のような法律事務所を選ぶことが重要です。
Q:金商法上の損害推定規定とはどのような内容か
金商法に基づく請求の場合、一定の株主は、損害の推定規定を用いて損害を主張することができます。すなわち、金商法においては、開示書類に虚偽記載があることが公表された日を基準として、公表日より前1年以内に当該有価証券を取得し、公表日まで継続して保有していた株主は公表日前1カ月間の市場価格の平均額から公表日後1カ月間の市場価格を控除した額が、虚偽記載により被った損害額と推定されます(金商法21条の2第3項)。
かかる推定規定を利用できる者は,公表日前1年以内に取得し,公表日において引き続き当該有価証券を保有する者に限られています。
Q:金商法上の損害推定規定における「公表」とはどのような場合をいうか
金商法上の損害推定規定における「公表」とは、当該書類の提出者又は当該提出者の業務若しくは財産に関し法令に基づく権限を有する者により、当該書類の虚偽記載等に係る記載すべき重要な事項または誤解を生じさせないために必要な重要な事実について、金商法25条1項の規定による公衆の縦覧その他の手段により、多数の者の知りうる状態に置く措置がとられたことをいいます(21条の2第4項)。
「公表」の内容については、ライブドア事件に関する最高裁判決(最判平24・3・13民集66巻5号1957頁)において、単に当該有価証券報告書等に虚偽記載等が存在しているという点のみを公表し、その内容について言及していない場合には、上記「公表」措置として足りないことは明らかであるが、他方、有価証券報告書等に記載すべき真実の情報(つまり、実際に正しい情報が何であったのか)についてまで「公表」措置がとられることまでも要求すると解すべきではないとし、「虚偽記載等のある有価証券報告書等の提出者等を発行者とする有価証券に対する取引所市場の評価の誤りを明らかにするに足りる基本的事実について上記措置がとられれば足りる」と判示されています。
Q:会社に対して民法709条に基づく請求をする場合、どのようなことを主張立証すればよいか
発行会社に対して不法行為709条に基づく請求をする場合は、以下の事実を主張立証する必要があります。
① 有価証券報告書等の虚偽記載の存在
② ①の虚偽記載に関する発行会社の故意又は過失
③ 損害の発生及びその額
④ ①と③との間の因果関係
Q:有価証券報告書等の虚偽記載等と因果関係のある損害とは
株主は、推定規定を用いない金商法上の請求をする場合及び民法709条に基づく請求をする場合、損害額と因果関係を立証する必要があります。
虚偽記載と相当因果関係のある損害とは、虚偽記載がなかったとしたら株主が置かれていたであろう経済状態と実際の経済状態の差をいいます。有価証券報告書等の虚偽記載等の事案においては、以下の2種類の主張があり得えます。
① 取得自体損害 | 有価証券報告書等の虚偽記載がなければ、株式を取得しなかったといえる場合の損害 |
② 高値取得損害(取得時差額損害) | 有価証券報告書等の虚偽記載がなければ、株式を取得しなかったとまではいえないが、有価証券報告書等の虚偽記載がなければ、より低い値段で株式を取得していたといえる場合の損害 |
但し、現在の裁判例の傾向としては、いずれの損害においても虚偽記載等の発覚後の市場株価の下落分のうちどの範囲について虚偽記載と相当因果関係が認められるかによって損害の範囲を確定しているとも指摘されており、結局は、いずれの損害の主張も損害額の算定結果は変わらないとの指摘もあります。
Q:カストディアン名義で株式を取得した投資家は、自己が実質的な株主であるとして損害賠償を請求することができるか
金商法21条の2第1項や民法709条に基づいて損害賠償を請求することができる株主とは、名義上の株主である必要があり、カストディアン名義で株式を取得した者(非名義株主)は、損害賠償請求権を有しないとした裁判例があります(東京地判令和5年12月21日)。
かかる裁判例に従いますと、カストディアンの名義で株式を取得した者は、名義株主であるカストディアンに訴えを提起してもらうか、カストディアンから損害賠償請求権の譲渡を受ける必要があることになります。
証券訴訟の分析
1.件数
- 公的統計:証券訴訟の件数に関する公的な統計はない
- 公刊されている判例の件数(金商法第21条の2に基づく請求が含まれるもののみ)
- 計45件(同一事件の下級審判例を含む)
- うち、損害賠償請求権が認められたものは33件
2.証券訴訟の係属期間
- 一審判決まで平均3年
- 最長10年(1件)
- 最低1年未満(1件)

